2014年3月21日、国際教養大学卒業式が挙行されました。
本日は、雪交じりの天候ながら、佐竹 敬久 秋田県知事をはじめとして多くの来賓に御参列いただき、191名の卒業生が新たな一歩を踏み出しました。
式辞 国際教養大学 学長 鈴木 典比古
皆さん、本日は栄えあるご卒業おめでとうございます。国際教養学部での学業を191名の皆さんが終えられ、本日、この多目的ホールに163名の皆さんが参列しております。また、本日の諸君の卒業式を心待ちにしていた御父母や関係者の皆さま方もこの卒業式においで頂いていますが、その皆さんにも衷心よりお祝いを申し上げます。
卒業生の皆さんは本学が6回目に社会に送り出す方々でありまして、かくしてこれまでに本学を巣立った卒業生数は皆さんを含めて832名になります。この数はこの3月に卒業式を迎える日本の全大学生の数に比べれば、誠に小さな数字であります。しかし、この小さな数字を構成する皆さん一人ひとりは誠に大きな将来のポテンシャルを有する個人であります。皆さんをこのような‘大きな個人’に育て上げたのは本学の国際教養教育、International Liberal Arts Educationであります。
それでは、その国際教養、International Liberal Artsとは何であったのでしょうか。いま、InternationalとLiberal Artsを分けて考えてみましょう。まず、Liberal Artsですが、リベラルアーツの語源はラテン語のArtes Liberalesであり、英語ではThe Art of a Free Person、日本語では「自由人になるための学芸」ということになります。この、「自由人になるための学芸」というのは、2千年以上も前のギリシャ・ローマ時代には国内に都市国家群が成立していましたが、それぞれの都市国家を防衛し、運営し、発展させていく責任ある行動力とリーダーシップを有する人間になるために必要とされる技芸や学問であり、知性・体力・倫理・行動をすべて含めた全人的能力を鍛錬するものでありました。その理想的な人物は古代オリンピック選手に顕れております。
やがて、中世に入ったヨーロッパでは、当時の封建制度の束縛や抑圧から人間を解放 (liberate a person)するため、人文主義者達によって人間形成のための教育として体系化されます。それは基礎的な学問としての3つのTrivium、即ち文法、修辞法、論理学の3分野を修めた学生をBachelor of Arts「学士」と呼び、更に上級的な4つのQuadrivium、即ち幾何学、算術、音楽、天文学の4分野を修めた人をMaster of Arts「修士」と呼びました。その上に法律、医学、神学を修めた人をDoctor of Philosophy「博士」と呼んだのであります。
このように、今日の学問の分野で言えば人文科学、社会科学、自然科学の全ての分野で訓練を施し、全人力を持つ人間を創り上げてゆくことがリベラルアーツであったのです。中世のルネサンス期を中心に活躍したレオナルド・ダビンチやミケランジェロやガリレオ・ガリレイやエラスムス等にその典型的人物像が見られます。
その後、ヨーロッパからアメリカに渡ったリベラルアーツ教育はアメリカという新天地で「個」を確立する教育として受け入れられ、更に社会や政治や産業の分野におけるリーダーを育成する教育へと変貌して行きました。そして第2次世界大戦後、そのようなリベラルアーツ教育が日本にもたらされたのであります。それはギリシャ・ローマの発祥の地から2千数百年の旅を経てきたものであります。
このように壮大な歴史的背景を持つリベラルアーツ教育は、本学ではどのように展開されているのでしょうか。諸君は本学のカリキュラムの中でTOEFLに始まり、EAPへと連動する英語集中プログラムの洗礼を受け、基盤教育に進み、グローバル・ビジネス課程とグローバル・スタディズ課程を擁する専門教養教育を修了しました。全ての科目が英語で行われ、その授業は教員と学生間の、あるいは学生間の対話によってなされることを基本的枠組みにしていました。このプロセスで諸君が履修した授業は中世のリベラルアーツ教育がそうであったように、人文科学、社会科学、自然科学諸分野の実に多様な科目を網羅しておりました。この意味で、諸君は2千数百年のリベラルアーツの歴史に連なる教育を本学で受けたのであります。英語による授業の他にも、諸君は学生寮での留学生達との共同生活や1年間の海外留学生活によって、他の大学であったならば経験することの出来なかった国際的学生生活を体験したのであります。
このような国際的体験が本学のリベラルアーツ教育をして国際教養教育、International Liberal Artsと呼ばしめる所以であります。例えて言うならば、諸君はこの4年間をかけて国際教養教育という大河の激流を渡り切ったのであります。
さて、このような国際教養教育の大河を渡った諸君はこれからどのような方向に向かうのでしょうか。それは今、我々人類の行く手に広がっている「グローバル社会」と言われる社会であります。グローバル社会では人種や国家や宗教や生活習慣の違いを認めた上で、またそれらの違いを越えて、人間一人ひとりが「個」としてその生命と尊厳と自由と責任が保証される社会であります。このような社会こそ21世紀の世界が目指す社会であり、それはまた本学の国際教養教育、International Liberal Arts Educationの理念と完全に一致する社会であります。諸君が受けた国際教養教育はこのような21世紀的意味を持っているのであります。
ここで、もう一つの例えを申し上げるならば、リベラルアーツ教育というのは、あたかもワイン醸造家がVintageものと呼ばれるような芳醇なワインを数十年かけて醸造するように、リベラルアーツ教育というのもその最終成果物、すなわち諸君のことですが、それがはっきりとその最終の成果を現すには数十年を要するということであります。別言すれば、諸君がVintageものの豊饒な「AIUリベラルア-ツの作品」になるには数十年の自助努力による成長が必要であるということであります。
私達は、本日この卒業式によって本学を巣立ってゆく諸君が数十年の社会経験を経て本学に舞い戻って来て呉れるときの姿を心躍らせて想像しながら、諸君を送り出します。諸君、ご卒業おめでとう。
卒業生代表挨拶 グローバル・スタディズ課程 吉村 咲
本日は私たち卒業生のために、このような盛大な卒業式を挙行していただき、誠にありがとうございます。ご臨席を賜りましたご来賓の皆様、ならびに諸先生方に、卒業生一同心より御礼申し上げます。また多くの方からお祝いと励ましのお言葉を頂き、胸が熱くなると共に身が引き締まる思いです。
4年前、私たちは様々な思いを胸に国際教養大学に入学しました。語学力を身につけて世界の人々とコミュニケーションを取りたい、様々な文化や価値観をもった人々と交流し視野を広げたい、各国の歴史や国際関係を学びたい、グローバル社会で活躍するためのスキルを身につけたい。当時、まだ知名度のあまり高くなかった大学への入学に、高校の先生や保護者から反対された人もいました。それでも、私たちが国際教養大学への入学を決意したのは、それぞれが頭に描くビジョンや夢を追い求め、グローバル社会で挑戦したいと思う私たちの目に、国際教養大学が魅力的に映ったからです。
しかし、入学当初の英語基盤教育では、慣れない英語に戸惑いながら、英語を読み、書き、聞き、話すことをひたすら繰り返し、日々の課題に追われる毎日。思うように英語を話すことができなかったり、なかなかTOEFLの点数が伸びなかったりと悔しい思いをし、挫けそうになったことも多々ありました。そんな中、「もっと英語力を身につけたい」「将来、国際社会で活躍したい」と常に高い志を持ち、勉学に励む友人を見て、私も負けていられないとさらなる高みを目指すことができました。
日々の生活は、多様な価値観や考え方に、驚きと学びの連続でした。寮や学生アパートでは、日本全国からの友人や様々な国や地域からの留学生とルームシェアをしました。掃除一つとってみても、これまで自分にとって当たり前だったことが、当たり前ではないと気付かされました。相手の文化ではどうしているのだろうかと思いを巡らせ、言葉で自分の考えを伝えることで初めて異文化理解をし合えるのだと学び、相手を尊重しつつ自分の意見を主張する難しさと大切さを実感しました。また、授業では各国の問題や国際関係について友人と議論を交わしたり、文献を読んで自分の意見をエッセイとして文章にまとめたり、プレゼンテーションをしたりしました。多様な価値観や考え方に触れることで、物事を多面的に捉え、批判的に考え、論理的に表現することを学びました。
1年間の留学では、異文化に身を置き、日本を外から見ることで日本人としてのアイデンティティが芽生えてきました。現地の友人や先生に聞かれることは、「日本ではどうなの?」ということ。私ひとりの行動や言葉が、少なからず相手が持つ日本のイメージに、良い意味でも悪い意味でも影響を与え得ると考えると、日本に対して問題意識を持ち、日本人として自分の考えを世界にしっかり発信していかなければならないという使命感を感じました。
そして今、4年間を振り返ると、国際教養大学で学ばせていただくことができ、心から幸せに感じています。授業で学んだ知識はもちろん、留学中に実際に自分の目で見た風景、肌で感じた空気、耳で聴いた言葉や音楽、舌で感じた文化。AIUや留学先で出会った様々なバックグラウンドを持つかけがえのない友人や先生。すべて国際教養大学で過ごしたからこそ得られたものです。私たちは、国際教養大学の卒業生であることを誇りに、胸を張って社会に羽ばたいていきます。
このように貴重な経験を通して多くのことを学び、今日卒業式を迎えることができるのは、私たちを日々支えてくださった多くの方々のおかげです。ゼロから大学を創造し、挑戦し続ける姿勢を自ら示してくださった今は亡き中嶋学長、丁寧で熱心にご教授、ご助言をしてくださった鈴木学長を始めとする諸先生方、いつも温かく見守ってくださった地域の方々、私たちのために道を切り開いてくださった先輩方、共に楽しみや悲しみ、悔しさを分かち合い切磋琢磨し合った友人、学業やサークル活動などに共に励んだ後輩たち、そしていつも後ろから支え激励してくれた家族。感謝してもしきれない思いでいっぱいです。
国際教養大学は今年で開学10周年を迎えます。4年前、私たちが魅力を感じてAIUに入学してきたように、これから先もAIUが魅力ある大学であり続けるために、私たち卒業生が社会人として邁進していかなければならないと身にしみて感じています。現在の国際情勢は入り組んでおり、日本と他国との関係づくりが益々重要になってきています。私たちはそのようなグルーバル社会に飛び込んでいかなければなりません。また、東日本大震災から3年目を迎えた日本の復興と2020年の東京オリンピックに向けた準備など、日本が取り組むべき様々な課題があります。これから先、国際教養大学で学んだ複眼的・批判的思考、語学力、新たな環境への適応力が国際社会で一歩一歩前進する原動力になると確信しています。
最後になりましたが、鈴木学長を始めとする諸先生方、事務局の方々、地域の方々、家族、私たちの学生生活を支えてくださったすべての皆様に改めて卒業生一同御礼申し上げます。あわせて、後輩の皆様方のご活躍と、国際教養大学の一層のご発展をお祈りし、卒業生代表の挨拶とさせて頂きます。
※実際のスピーチは英語で行われておりますが、ここでは日本語訳を掲載しております。
<佐竹知事祝辞の様子>
<渡辺特任教授の祝賀曲演奏の様子>
<記念撮影の様子>